生物の恒常性維持機能 Mental-Health
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「無機質な機械と有機的な生物の根本的な違い」
人間を無機質な機械に例えてみましょう。機械に不具合が生じたら、通常はその原因を除去します。例えば、コピー機の紙詰まりを解消するように。この不具合は、外部からの介入がなければ自然には解決されません。これが無機質な機械と有機的な生物の大きな違いです。
生物は、変化に富んだ環境に柔軟に適応する能力を持っています。恒温動物である鳥類や哺乳類は、外気温の変動にも耐えられるような身体構造を備えています。たとえば、発汗や身震いは体温を安定させるための自然な調整機能です。生物は、自身の体内で調整や修復を行い、環境の変化に適応する能力があるのです。
「生体の恒常性:外部の影響を内部で調整する」
生命維持には、体温調整だけでなく、血圧や血糖値など、多くの指標を適正範囲内に保つことが不可欠です。これらが適切な範囲を逸脱すると、生存は困難になります。生きるためには、これらの指標を恒常的に安定させ続ける必要があります。
この安定化プロセスは、生物の恒常性維持機能と呼ばれます。外部環境の影響を内部で打ち消し、安定した状態を維持するために、生物はさまざまな反応を示します。例えば、亀のような変温動物は、体温を内部で調整することはできませんが、日光の当たる場所に移動することで体温を調節します。これは彼らが日光浴をしなければいられないという感覚に動機づけられている結果です。つまり、生物の恒常性維持機能は、その行動にも影響を及ぼしているのです。
「恒常性維持機能:日常行動への影響」
私たち人間の身体構造は進化の結果であり、亀や他の爬虫類と共通する部分があります。例えば、亀が日光浴をする行動と、人がヒーターをつける行動は、根底に同じ動機があります。どちらも、そうしなければいられないという感覚に基づいています。亀が日光浴をするのは意識的な選択ではなく、ヒーターをつける人も、大抵は深く考えることなく行動しています。
このように、生物の動機づけは恒常性維持機能の拡張と考えることができます。私たちの感情や感覚は、まるであやつり人形の糸のようなものです。恒常性を司る視床下部は、感情や感覚を利用して、体内の特定の指標を適正な範囲に保とうとします。
「甘いものへの抵抗不能:体の求めるバランス」
理性的な判断ができる人でも、自分の行動をコントロールできない瞬間があります。分かっていても止められない、ついやってしまうことがあるのです。これは、体内の特定の指標が適正範囲を逸脱しているために生じる反応かもしれません。この動機づけられた行為は、その指標を正常な範囲に戻すために起こります。
甘いものを止められない例は、この現象を理解するのに非常に分かりやすいです。血糖値が低下すると、グルカゴンというホルモンが肝臓で働き、血糖値を適正なレベルに戻します。それでも足りないとき、私たちは外部から糖分を摂取するよう無意識に動機づけられます。この時、たとえ意識的に糖分を避けようとしても、無意識は甘いものを求める行動を促すことがあります。
「生存の本質:体内指標の安定」
生物が生きる目的は、最終的には自己複製を果たすことにありますが、まずは生存を維持することが基本的な目標です。しかし、「生存を維持する」というのは、具体的に何を意味するのでしょうか?実は、これは体内の特定の指標を適正範囲に安定させ続けることを意味しています。
生存とは、血圧や血糖値などの関連する指標を一定の範囲内で保ち続けることの結果なのです。これらの指標は数字で表すことができ、人間が目で確認し、必要に応じて調整することが可能です。ただし、すべての指標が感覚器官で容易に知覚できるわけではありません。一部の指標は客観的に確認しにくいものも存在します。
「不快な感情の役割:故障ではなく必要な過程」
人間の生存が分業と集団所属によって支えられていることを考えると、孤独感や罪悪感、劣等感、無力感といった感情は、集団内での適切な役割や交換を促すための重要な指標となります。これらの感情は、コピー機の紙詰まりのように単純に取り除くことができるものではありません。
たとえば、リストカットや自殺未遂といった行為がどうして起こるのか、その背景にある感情の機能を次章で詳しく見ていきましょう。いかに異質な行為でも、それには一定の機能や目的があります。これらの行動は、本人にとって不幸かもしれませんが、内側からの強い感覚によって起こされるものです。精神症状にもその行動を取るにふさわしい理由があります。その理由を理解することで、症状という「コート」を自ら脱ぎ捨てることが可能になるかもしれません。